不仲









…元来蓬山で育った景麒には全く理解できない。主の奔放さを倦厭し、不可解にしか思えない。何度改善を試みても、主は一向に景麒の言を聞き入れることなく、鬱陶しいとばかりに麒麟を遠ざける。

主従の間の溝は、日に日に深くどす黒くなってきていた。


どうしてあの方はこうも私を苛立たせる!
ある堂室。瑛州の高官は、険悪なオーラを醸し出す瑛州候兼宰輔の麒麟を驚愕の貌で眺めている。あの儚い気配で、美しく彫刻のような、感情の欠落した台輔が。神聖ともいえる、誰もを寄せ付けない冷静で無感情の台輔が、初めて見るほどに眉間をこれ以上ない程、滝のように割らせて、手に持つ筆を叩き折らんばかりの勢いで怒りに震えている。
怖い…!
「ど、どうしたらよいのだろうか。こ、こわい…」
「しかし書簡をお渡ししなければ退出することもできまい…、ど、どうしたら…」
と悶々とする官吏にも気付かぬ台輔はそれでも仕事を留まらせることなく優秀な手際で片づけて行く。時折、流暢に流れる筆遣いがぴたりととまり、難しい顔をしたかとおもえば、再び強烈な怒気を醸し出しながら、怒りに震えている。午後からこれの繰り返しであった。
「な、なにがあったのだろうか…こんな台輔は見たことがない」
「三日徹夜をしても、軽く眉を寄せる程度の台輔が…」
冷たい眼差しや、素っ気ない素振りはいつものことだが、ここまで感情的に怒りを露わにすることは前代未聞だった。失道の予兆か!?と瑛州の官吏たちが不安を感じ始めたその時、話中の人物が、雷に打たれたように、凍り付いた。それは不思議な現象だった。 一瞬、誰もが見惚れる微笑で台輔の頬が綻んだ。
「た、台輔…?」
気付いた州候補佐の官吏の男が、訝しげに麒麟を見つめる。すると、微笑もどこへやら、これ以上無理だとおもっていた眉間の皺が、さらに濃くなっている!端正な目元を手で押さえながら、渾身の溜息を吐き出すと、台輔は静かに席を外していった。
な、なんだったんだ?、と経緯をみていた官吏は、恐怖から解放された安堵で気が抜けて、暫く仕事に身が入らなかった。


「なるほど、瑛州はいい官吏がそろっているらしい」
王宮に上がってくる書簡の対応が素早いはずだと、陽子はぐるりと官吏の働きぶりを見渡しながら思った。先の官吏の移動で、配置替えをした後の様子をちらりと見ておきたかったのだ。お忍びなので、地味な黒の男物の官服と、布に包んだ水寓刀を腰帯にぶら下げて目立たぬようした。(実際は見ない顔の上に赤い髪なので誰もが振り返っていたが)
そうして景王登極時に顔を合わせていた高官と二三言葉を交わす。
「主上であられますか!どうしてこのような場所へおいでに?」
「いや、見学だ」
見学と申されましても…、と前代未聞の景王訪問に、会う者がみな、挙動不審になる。
「いつもご苦労様、瑛州の収税についての書簡はこちらで決着がついたのだろうか。先週王宮のほうで手直しを頼んでおいた件だが」
「それでしたら、台輔が直々にお持ちになられるかと存じておりますが…主上?」
「いや…」
あからさまに、主の眉が歪められたのを見て、官吏はさらに狼狽える。
「なんでもないよ。ただ、台輔の元で従事する者達もこの件について聞いてみたかったんだ。私は金波宮に詰めているが、世間が狭ければ、見聞は広がらないから。出来れば台輔以外の瑛州の者に、意見を問いたかった」
左様でございましたか、と主から滲み出る覇気を感じながらも、誠実な言動を取る主を好ましく思う。それに、玉座におられる主とはまた違った、誰もが振り向くような端正な美少年顔の主に、官吏はほうと息をつく。 激しい覇気を背負いながらも、言動の端々にみえる拙さが、未だ王としての立場を慣れぬことを感じさせて、その危うさが恐れ多くも少し可愛らしくも思えた。


陽子はその後、仕事の邪魔をしないように、こそりと周辺を見学すると、労いの言葉を残して帰ろうとした。
「恐れながら、主上、台輔にはお会いになられませんのでしょうか」
振り返った陽子は、極端に低音できり返す。
「どうしてだろうか。毎日会う顔に、無理して会おうとは思わないが」
明らかに先ほどの毅然とした誠実な顔から、苛立ちをたちこめたそれに変わった。 最近、己の麒麟はさらに口煩くなり、陽子はうんざりしていた。 特に用がない時でも、一日に何度も顔を見せて、鉄面皮で陽子を監視している。あなたは情けない、みっともない、王らしくない、…と難癖をつけて文句が尽きない。
景麒の言葉が嫌味だったのは昔からだが、ここまであからさまではなかったはずなのだ、―――――

翡翠の瞳をゆっくりと伏せながら無言になった主を見て、気迫負けした高官は思わず叩頭した。 あ、と陽子は呟いて、気を緩めた。
「すまない、別件ですこし苛立っていただけなんだ。顔を上げてくれ」
苦笑気味に何度もそう言っても、官がなかなか頭を上げないことに焦れて、陽子は膝を折ってその肩に触れる。 だが余計恐縮してしまい顔を上げられない。
と、主上、と峻厳な低い声がして、場が更に凍り付く。 回廊の離れた場所に立ち尽くしているのは冷たい色の金の鬣。台輔だと官吏が気付いた途端、側にいた主の気配がぴり、と張りつめた。
「主上、このようなところで、いかがなさったか」
「いや…」
「気易く官に接触するのはお止めくださいと申しました。王の威厳に関わります」
「この者はそのような建前を気にするような者ではない。いくら虚勢や見栄を張ろうと私は私でしかない」
言い切った凛とした声には、存外覇気が強烈だった。
台輔と官吏は言葉に詰まって黙り込む。
「………もしや、御政務を放り出してこちらにおいでになられたか?」
「政務は終わらせた。といっても、ろくに仕事のできない私を見限って、冢宰が休憩をくれた、といった方が正解だな」
「浩瀚が…?」
「瑛州に訪問することを勧めてくれたのも冢宰だ。何故かは知らないが、気分転換に視察にいってこいと」
景麒は察する。 あの有能且つ食えない冢宰は、以前から、慶の主従の仲を懸念して、仲直りをさせようと何度も目論んでいる。 だが、冢宰にしては珍しく悉く失敗している。当の本人達が、仲直りする気がないのだから、当たり前なのだが。
「ならば、致し方御座いません……したが、なにゆえお一人でこちらにいらしたのですか。 護衛も付けず、王が外界を歩き回るなど、危険だとお解りでしょう」
バリバリと、大気が割り切れそうなほど冷気が王と台輔から漂っている。官吏はひえ、とか細く悲鳴を上げた。
「使令がいるのに、たいして危険などあるものか。それに、今日は視察に来ただけだ」
紺紫の双眸が酷く冷めたものになる。
「私どもを信頼しておられないと?」
「部下をこの目で見ておきたいと思うことの何が悪い。言っておくが、官や景麒を信頼していないわけではない。信頼しているしていないの問題ではなく、これは王の義務だろう」
「義務だとおっしゃるならば、一刻も早く政務をなさって、お慣れください。主上の義務の第一は、金波宮でのご采配です」
翠玉が台輔を睨め付ける。
「私とて本気でやっている!今更文字が読めないことなど言い訳にもならないこともわかっている。だが、どうしようもないことだってある。上手く事が進まないのは私の不甲斐なさの上だ。だからこうやってわたしにできることからやろうとしているんだ」
「――ならば、今後一切政務室からお出にならないでください!あなたはそこでじっとしていればよろしい!」
珍しくも景麒が声を荒げた。陽子はびくりとした。
回廊を渡っていた官吏の誰もが振り返り、唖然とした視線が麒麟に集中する。 景麒自信も、己の口から出た音量と、不敬な意味に驚きを隠せず、視線を思わず逸らす。
「――…ご無礼を」
「……か、帰る!」
言い切って、心底苦い顔をした後、主は踵を返す。 その後ろ姿を見つめる金の鬣の青年はぼんやりとした顔で主を見送った。



数日後、景王の正室、書房にて、二人の娘と、来訪中の小さな麒麟が語り合っている。
「陽子、随分落ち込んじゃって…一見怒ってるだけだけれど、相当傷ついてるわよね」
鈴が茶器を延麒に渡しながら、大きな黒瞳を惑わせる。
「なんだかまずくないか?そこまで仲が悪いのはちょっと国の危機かとおもうけどな」
さらりと言って延麒は茶菓子をかみ砕く。
「確かに…。他国には知られたくない切実な汚点ですね。だけど、和州の乱直後はそこまで仲が悪かったわけじゃないの。むしろ、初勅を打ち出した日は二人で露台で話しをしていたりしたし、その後も結構話をしていたし。悪くはなかったわ。でもそれは、切羽詰まっていた時期だったから打ち解けていたのだろうけれど、今やっと国が落ち着いてきて、そうしたら、一気に仲が冷めちゃって。今はお互い顔を見ただけで喧嘩が始まるし…普通、時間が出来た分、心にゆとりもできるだろうしこれから、って時なのに」
どうしたものかしらと祥瓊は溜息をつく。
「まぁ景麒はああいう性格だしなぁ。陽子も苦労するって。お互い分かり合っているようで、言葉が少ないからいっつもすれ違ってるんだよなぁ」
「このままじゃあ、傾国の危機かもしれないわ。どうにかあの二人を仲良くできないかしら」
無理だろうとは言えず、延麒は心底悩み始めた鈴と祥瓊をみる。
「わかった。俺が仲介に入ろう」
にぃ、と笑った小さな麒麟は、確実に面白がっていた。


「これは、どういうことでしょうか」
景麒は憮然とした顔で、卓に並べられた菜が盛られた皿を見る。そうして視線をずらせば、漆黒の衣に身を包んだ、赤い髪の少年、――基、少女である景王が、これまた不服の表情で椅子に腰掛けていた。その横には、隣国の麒麟。
「まぁ座れって、夕餉をみんなで楽しくしようっていうだけだろ。そんなに怒るなよ〜」
「延台輔がおられるのはわかります、ですが、何故主上がこちらにおいでになるのですか」
まさしくここは仁重殿の房室であり、景麒が日常一人食事をする部屋である。
「延台輔のご招待だ。お断りする理由がない」
「陽子もこういってるじゃん。早く席につけ」
勧められて、景麒は主の真正面の席に、渋々座った。こうしてみると、主と顔を嫌でも合わせなければならないため、お互い非常に居心地がわるかった。喧嘩のせいもあるが、景麒はここ最近主の側にいることに、居たたまれ無さを感じていた。
延麒の思惑は、『仲良くなるためには一緒に楽しく飯を食う!』というかなり安直にて素朴な、けれど結構な妙案だった。
延麒の明るさと陽子の気さくさで会話は途切れることはないが、景麒の存在感は徐々に薄れ始め、食事が半分程度になったころ、延麒は焦り始める。
俺と陽子が仲良くなっても意味ないじゃん!!
早く気づけよと突っ込む者もいるはずもなく、黙々とゆっくりとした動作で食べ続けるだけの景麒を、延麒は睨め付ける。
「――…何か」
「いいや、それより景麒。おまえ最近ずっと怒ってるよな」
「――別に、怒るなど…」
ここ最近はおかしいと延麒も解っている。 堅物で生真面目なのは昔からだが、ここまで冷たい怒りを醸し出しながら、陰険になることは過去にない。 感情の欠落した部分のあるこの麒麟が、ここまで負の感情を露わにすることも今までに無かった。
「やっぱり、陽子が原因か?」
何気ない言葉に、隣で延麒用の器を盛っていた陽子の手がぴたりと止まる。 そして翠の瞳が暗澹に細められる。焦って延麒は陽子に振り返るが、その一歩先に、酷く冷たい抑鬱な声がする。
「主上は私を怒らせることがお上手ですから」
主の静かなる勘気に気付かず、景麒は淡々と言い、感情の抜け落ちた面(おもて)をふい、と主から外した。
――この鈍感が!なぜ今其れを言う!
未だ皿を持つ手が停止したままの陽子から、何とも言えぬ冷気が漂う。
「主上は王としての御自覚をお持ちでない。常にお側で忠告せねばならぬこちらの身も考えず、御勝手ばかりを」
溜息混じりの景麒の低く小さい呟きに、陽子が皿を置いた。
「それは、お前がいなければ、私が無能の王だと言いたいわけか」
どうしてそうなるのだ、と延麒は心の中、悲鳴を上げる。陽子は鋭い眼光で己の麒麟を見つめて言う。
「確かにお前の補佐がなければ私は仕事すらままならない。こちらのことを知らないから、変なことを言っていることも知っている。だから、景麒の忠告を参考にしているし無下にしているわけではないだろう」
「確かに、聞く耳はお持ちのようだ。ですが全てをお飲みになっているわけではない」
「――景麒、いい加減にしないか。最近口が過ぎるぞ。どうして妙に反抗的なんだ」
「――…反抗的…? まさか」
「それに良く喧嘩を売ってくるな」
「主上が売らせているだけでしょう」
淡々とした物怖じしない声が余計に勘に障る。壮絶な零下が辺りに立ちこめ、延麒は肌を泡立たせる。
「最近は以前に増して口が悪い。小言はいつものことだが、つっかかりすぎだ。 何か含むところがあるならば直接それを言葉にしてくれ。会話の中にちらほら棘があるようで、居心地が悪い」
景麒は、わからない、と言った顔でゆっくりと首を傾げる。
「――先日、私が試しに女衣装を着ていたらお前、何と言ったか覚えているか」
「――……はい、覚えております」
「似合いません、と言ったな。本気で。……まわりに居た女御が困っていたのに気付かなかったのか?」
「似合わないと申した上げた訳では御座いません。私は少々、主上にしては露出が過ぎると申し上げただけ。よもやその衣装で外殿までお出になることになれば、御羞恥なさるのは主上のほうなのですよ」
「ほんのちょっといつもより羽織る布が薄いだけだろう!」
「主上の感覚に合わせていれば、慶は慎みのない国となりましょう」
「…なっ」
「何度言っても、下官の着るような粗末な布の官服しかお召しでない。女官が世話を焼くのを避けられ、なんでも自分でしようとする。いくら剣を持つなと訴えても、水寓刀を日夜常に手放さない。将軍や小臣と、真剣で手合わせをなさる。ふらりと尭天に下ってしまう。女性にあるまじきはしたない振る舞い。他にも多数御座いますが。――これを何度私が注意したでしょうか。したが、主上は改善なさることはない」
「――どうしてこういう時だけよく喋る」
「主上が私をそのように振る舞わせるよう、仕向けておられる」
「なるほど。全ては私の責任ということか。では言わせて貰うが、おまえとて、改善点は多くある。まず眉間の皺をやめろ。溜息もやめろ。朝儀の間中、睨み付けるようにこっちを見ているな。気が散る。用もないのに私のそばで監視するように侍っているのをやめろ、たいして危険もないのに無闇に使令を押しつけるな」
「なれば、宮から、――いえ、内殿から必要上にお出にならないでください。そうすれば監視もいたしませんし、使令も必要ありません」
「どうして出てはいけない。お前は私を籠の鳥にしたいのか!下僕の身で、私に指図をするつもりか」
完全に逆鱗に触れたことを悟り、延麒は立ち上がった陽子を宥めるが、既に遅い。景麒が上乗せするように発破をかける。
「今日とて、瑛州においでになったと思えば、官吏と言葉を交わしてあまつさえ肩を触れるなど。 ――神籍にある者が、易々と身一つで外界にお出になった。軽率な行動は王としてどうかと。――それに、主上は警戒心が無さ過ぎる、もう少し御身を気遣っていただきたい。お一人のお体ではないのですから、――おわかりか」
「――もういい!」
――なんなんだこの麒麟は!
怒りは溢れ続けているが、茶番にうんざりして陽子は踵を返し、足早に堂室を去っていった。


一陣の赤い風が去り、二つの麒麟はそれぞれ気が抜けたふうに椅子に躯を沈みこませた。 経緯をぽかんした顔で聞いていた延麒は、鬱々と溜息を吐いて瞑目した景麒を見て、苦笑した。
これはどうみても白熱した痴話喧嘩だ。それもかなり一方的な。
「景麒、陽子が心配なら心配だって言った方がいいぞ」
憮然として景麒は言う。
「――私は何度もそう申し上げている。ですが主上がお聞きにならない」
「ちげーよ。そりゃあ、陽子を心配して言ってるってのはわかったけど、お前の言い方は遠回しすぎるんだよ。あれじゃあ、心配しているっていうより、呆れて突き放してるようにしか聞こえない。それに、陽子が王でなく女王だから心配しているってことも、全然わかりにくい」
景麒は小さな麒麟から視線をふい、と逸らす。 幾分か、落ち着きを取り戻した白皙の横顔を見て、延麒は溜息混じりに言う。
「お前さ、結構陽子のこと、好きだろ」
挑発的な延麒の問いに、景麒は唖然として、瞼を瞬かせる。
「――…主上を嫌うはずがございません。私は麒麟です。王を疎ましく感じる麒麟がいるはずはない」
「そうか?ならなんであんなに意地悪な言い方しかできないんだ?」
片膝をついて、景麒の顔を覗き込むように近づく。秀麗な面は、今や先ほどの激昂は一つも見あたらず、心の無い人形のようだったが、延麒は僅かに菖蒲色の瞳の奥に、緩急に揺れ動く何かを見た。

「確かに、言葉が過ぎました…」
景麒は瞼を震わせ、目を堅く瞑って、深い溜息を吐き出す。
「どうしてか、あの方の御顔を見ると、訳もなく苛立って、仕方がない」
白く細長い指先で顔を覆うようにして項垂れた景麒をみやって、 延麒はわざとらしく大きく咳払いをして、軽やかに笑った。
「あんなにつっかかってたのも、意地悪に言ったのも、ほんとは、陽子の気を引きたくて、構って欲しかっただけだろ?どうして、綺麗な格好した陽子を誰の目にも触れさせたくないって正直に言わないんだ。瑛州で他の男といちゃいちゃしてたのが悔しくてたまらなかったって言えばいいだろ。陽子はそういうことに頓着しないから下官にも気易いし、剣の試合なら尚更躯の接触もあるし。そういうのが嫌で、ここんところ苛立ってたんだろ?――だからこそ、陽子を鳥籠に閉じこめるような言い方をした」
景麒はぽかんとして口を開けない。
「やっぱ、すっげぇ好きだろ?」
再度問う延麒に、景麒は機械人形のように歪な仕草で首を横に振る。
「まさか。そうではない。――――私は――…主上の御身を心配して――…主上はそのようなことに、ことのほか無防備であられるから、――害ある者から、私がお守りせねばなりません。――…しからば…――」
「はっきりしろよ、好きなのか嫌いなのか」
「好きです」
雪崩れ込むように言い切って、それから景麒はさぁ、と蒼白になった。 言ってから、この世の終わりのような顔をして呆然としてしまった。 自分が何を言ったか、理解した途端何かが頭の中にストンと落ちてきた。
景麒はそれから黙り込み、足下をふらふらとさせて席を去った。一人取り残された麒麟は、にやにやと微笑みながら残りの夕餉を全て平らげて、祖国へと帰っていった。
ひとまず傾国に関しては事も無きに済みそうだ。そうして すごい面白いネタを掴んだことを、一刻も早く己の半身に報告せねばなるまい。













2005/5/23
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